円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~Blog版

C88で頒布した同人誌『円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~』のBlog版です。

④短篇集

収録巻:円環少女(7) 夢のように、夜明けのように

担当:◆…立花/◇…kieru

【あらすじ】

 短編集。バベル再臨編後のきずなと出会ってからグレンが現れるまでの出来事である『しあわせの刻印』、『つながれた愛のしるし』と核テロ編で仁が公館を解雇された後の『薔薇はうつくしく散る』、『ハダカのこころで』の四篇と、賢者の石/公館陥落編に繋がる挿話で構成されている。

・しあわせの刻印

 この世界で結婚し家庭を持った刻印魔導師内藤サミュエルは、地獄で戦わずに生活する刻印魔導師として罪悪感に苦しんでいた――。刻印魔導師の多様性が垣間見える一編。

・つながれる愛のしるし

 しりとりで魔法を使う天盟大系の巫女、マチルダ・クリストリッツァ。仁たちは、愛をばらまき世界を救うという大魔法構造体インマラホテプを召還するという彼女に協力してしりとりを始める。果たして仁、メイゼル、きずな、マチルダの四人は、抽象概念である『愛』で魔法を発動できるのか――?

・薔薇はうつくしく散る

 メイゼルが生徒会選挙に立候補するという。現代日本の常識から逸脱したメイゼルの選挙活動が、私立御陵甲小学校に新たな波乱を呼ぶ。また体育倉庫に潜んでいた賢猟大系の魔法使い、瀬利ニガッタがメイゼルを主人と呼んで、選挙に協力すると言い出し――。メイゼルの語るSとしての矜持がなかなか興味深い。

・ハダカのこころで

 仁は一応小学校教師なので、時期が来れば家庭訪問もする。しかし今回の訪問先の寒川家では親子喧嘩のごたごたで当日なのに保護者が家を空けていて、その上なぜか協会の錬金大系魔導師セラ・バラードが紀子の部屋にかくまわれていて――? 特性上全裸になりたがる錬金大系魔導師が、作中一番の真面目人間寒川さんを困らせる、という一言に尽きる。

【名シーンTOP3】

◆「オレたちの本当の地獄」7巻/P72

 高速な発火魔術の使い手にして大量殺人犯として地獄送りにされた刻印魔導師、内藤サミュエルは地獄―現代日本で結婚し六人の子どもをもうけても、元の因果大系世界で犯してしまった自分の罪に苛まれていた。本編に継続的に大きく関わる刻印魔導師は政治抗争ゆえや望んで地獄に来るもの――つまり、刻印魔導師となるに至った己の歩みについては了解している者が多い印象だが、そうでない者――すり減りながら己の罪と向き合い続ける者もいるのだ、ということを端的に示すエピソード。また「地獄は自分の中にこそある」という観念は長谷先生の傑作SF短編『allo, toi, toi』に明確に受け継がれている。

◆「インマラホテプの影響下のきずな」7巻/P122

 魔法構造体に頭に魔法で愛情をたたきこまれたきずなさん、パジャマ姿で身をよじりながら、
「やだ……わたし、なんかやだ……」
 だそうです。エローい、問答無用。

◇「私たち片思い三銃士」7巻/P125

 本日のびっくりドッキリ魔法人間は天盟大系の巫女/マチルダ・クリストリッツァ。突然、仁、メイゼル、きずなの三人を訪れた謎の高位魔導師。インマラホテプという愛のしりとり大魔法構造体が、円環少女本編ラストに登場するとは誰が予想できたであろうか?
 それはさておき、そのマチルダという巫女が変態魔法使いの中で群を抜いての大変態。しかも天盟大系の大神官には、地獄に愛を求めよと言いくるめられて、厄介払いされたというお墨付き。巫女なので白い服であれば何でもよいだとか、空気の読めなさもピカ一。
 なんやかんやあって、インマラホテプが発動する。が、愛の殉教者となったメイゼル、きずな、マチルダはそれぞれが三姉妹のように仲良く頬を寄せ合うというまさかのハーレム(?) 展開になる。仁だけは魔法消去で難なく逃れるが、時すでにおそし。ドロドロの愛に埋もれた三人は、各人包丁を手に取っての大号令。包丁という凶器/狂気も最高。
『私たち片思い三銃士、生まれたところはちがっても、倒れるところはひとつの場所に!』
『なぜここで三銃士をパクる?!』のツッコミもまた素敵。まるでコントの舞台のような会話劇も描けてしまう長谷先生、流石。

◇「メイゼル、小学校を征服す」7巻/P185

 本日のびっくりドッキリ魔法人間は猟犬大系の元密偵/瀬利ニガッタ。生徒会役員選挙に突如(ほぼ強引に)立候補したメイゼル。そして選挙のライバルである速水志保。選挙活動という名の学校プロパガンダ抗争が加速する中、その裏で暗躍する変態魔法使いとのコントがなにより面白い。メイゼルに彼女の命令に従う実直な犬を与えてはならない。
 そしてメイゼルのこの一言。
『あたしのいた円環世界には、小学校なんてなかったわ。(中略)あたしにとって特別な場所は、ふさわしいくらい、あたしでいっぱいにしたいの』
 名門の魔法使い、メイゼルらしい発言。せんせの心にも、小学校という場所にも、メイゼルでいっぱいにしたい欲を端的に表現する名台詞。素晴らしいメイゼルの征服力。

◆「お家での寒川さん」7巻/P229

「犬が飼いたいのに両親に反対されて喧嘩する」「だから捨て犬を拾えないか、雨の日にゴミ捨て場に行ってみる」「家庭訪問のことを親に伝え忘れたまま当日を迎えて焦る」……メイゼルに振り回されるしっかりものの女の子、というイメージの寒川さんの意外な一面が大盤振る舞いだ。この体験で大きく成長する(変態への順応性という点で)寒川さんのこれからに目が離せない。

◇「誰もが変化に押し流され、決断を迫られる場所」7巻/P278

 平穏に続いている仁の日常は、次の瞬間にも終わるかもしれない。そんな中、メイゼルは刻印魔術師として“変わらない”意志で行動しながらも、その心情は徐々に、地獄におけるせんせとの生活や小学校生活に魅力や生きる意味を見出し始めている。それに対してきずなは変わることを拒み続ける。仁が倉本慈雄の話題を出そうとするとその気配を察知して、逃げてしまう。折角手に入れた場所、いつもの日常、そして普通の女子高生という立場を手放したくないがための固い意志。そしてこの半年も満たない時間で一番変わってしまったのが仁自身であった。専任係官として魔法使いたちに《沈黙》を与えていた真なる悪鬼はメイゼルと出会ってから、甘く、情に流されやすく、弱くなってしまった。この変化が、アンゼロッタ来日からの連戦連敗へ繋がってゆく。そして、三人の人間関係を描くひとつの分岐点的な場面。
 愉快な短編を挟みながらも本編へと繋がるエピソードを挿入してくる長谷先生の生真面目さと誠実さが顕著にあらわれているとも言える。個人的には、今野緒雪著/マリア様がみてるシリーズの短篇集を読んでいるかのような錯覚を引き起こしました。