円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~Blog版

C88で頒布した同人誌『円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~』のBlog版です。

⑤賢者の石/公館陥落編

収録巻:円環少女(8) 裏切りの天秤、円環少女(9) 公館陥落

担当:◆…立花/◇…kieru

【あらすじ】

 神音大系聖騎士将軍《至高の人》アンゼロッタ・ユーディナ来日。求めるは賢者の石。公館と警察との共同戦線を歩もうとする十崎京香、刻印魔術師の未来を案じる東郷永光。変わりゆく日常の中、一人だけ公館を追い出されて、ふらついている武原仁。
 そんな中、日中帯の市街を舞台に繰り広げられる公館&警察vs聖騎士隊。まさに、日本という社会と神音大系という社会の全面戦争。そしてそこから繰り広げられる壮絶な連戦。アンゼロッタが仕掛けた広範囲な市街戦から、エレオノール宅の六畳一間強襲。仁の倉本滋雄殺害の告白から、廃ビルでのメイゼルvs仁。そしてバベル再々臨からの聖騎士団vs専任係官とその仲間たち。幻影城を脱出したかと思ったら、東郷と鬼火衆による公館陥落事件。
 東郷暗殺指令から、仁vs東郷の狙撃&剣術対決。最後は武蔵野迷宮地下での《九位》vs《螺旋の化身》。ふらついた仁が行き着いた先は、欲望を叶えるために悪人になるという覚悟。そしてこの人間の欲望が、新世界でゆくゆく神に承認されるのである。
 だがしかし、そんな仁が好きなモノはおっぱい、ひげ、くまのぬいぐるみ。武原仁はどこまで堕ちるのか。

【名シーンTOP3】

◆「自ら進んで両腕をリボンで縛られる寒川さん」8巻/P178

 7巻の家庭訪問でのゴタゴタで錬金大系の魔導師セラ・バラードにひどい目に遭わされた寒川さん。しかしその体験が彼女を鍛えたのか、日々のメイゼルの可愛がりにもすっかり順応していた。メイゼルはメイゼルで寒川さんが抵抗しないで縛られることに疑問も不満もないようで、会話の内容は仁のことであっても合意のもとの行為で完全に二人だけの世界を作っているように見える。これからも仲の良い二人で居続けられたら、このソフトSM空間は一体どこまでいってしまうのだろうか? 仁が気づいたころに二人が至っているであろう境地を想像して、私は戦慄せざるをえない。

◆「メイゼルの……下克上!」8巻/P189

 仁はとうとうきずなに慈雄――彼女の父を殺したことを告白――いや、白状してしまう。そして、仁は自身の倫理観と慈雄を殺しそれを黙っていた罪悪感から、きずなは当事者、被害者であることから、二人は互いに一歩も動けない「加害者―被害者」の関係にはまりこんでしまう。仁の抱えた秘密の重さは、先行するエレオノールの部屋に二人きりになった仁ときずなが険悪になってしまうシーン(8巻P120)で読者にもひしひしと伝わっているはずだ。その秘密がなしくずしでぶちまけられたあとにくるのは、「まだ底があるのか……」と思わされる閉塞感だ。
 しかしその閉塞感を、「仁を力でねじ伏せて自分のものにする!」と決意したメイゼルがぶち破りにくる。刻印魔導師の責務を大事にするメイゼルにとって、公館を抜けた仁はもう従うべき監督者ではなく、ただの想い人だ。この戦いは仁にとって苦しくても、公館を抜けることで手に入れた、メイゼルと新しい関係を結ぶきっかけなのだ。

◇「魔法使いは急には止まれない」8巻/P264

 バベル再々臨。幻影城に突入した仁とメイゼルを待ち構えていたのは数千もの神聖騎士団。そこへきずなとエレオノールが登場したことにより、騎士団の第一目標がきずな&エレオノールに変更される。その隙に仁&メイゼルが遠距離からの超大魔弾である《月光槌》へ突撃。崩れた陣形を更に左側からは《魔獣使い》神和瑞希が巨大樹を次々と生成し、右側からは全裸の魔剣士/セラ・バラードが《聖別の化身》で広範囲攻撃をしかける。この陣形を立て直すために救援に向かわされたのが《閃輪》を作動させた高速試験中隊。
仁の“狩りどき”はまさにその時だった。仁の魔法消去により、時速六十キロの動力源を失い、高速機動部隊は一瞬で壊滅させられた。
『次は、人間にやさしいブレーキをつけとけ。お互いにな』
 特に連携していなかった三組のチームプレーという奇跡と大惨事を負った聖騎士の図がなんとも爽快である。そして、専任係官の仁は、《閃輪》の魔法をみた瞬間から、きっとこの情景をその頭に思い描いていたのだろう。長谷先生も同様にこのシーンを描いていたに違いない。

◇「メイゼル、ママになる」9巻/P145

『かわいい。せんせ、赤ちゃんみたい』『せんせ、あたしがお母さんよ』この瞬間、メイゼルはママになり、仁は赤ちゃんになった。そして読者は悶絶する。
 核テロ事件の折、仁は、《鬼火》東郷永光に『――預ける。貴様の傷が癒えたころ、あらためて勝負をつけよう』と死の宣告を受けていた。そしてそれは武蔵野迷宮で実現し、左肩から肋骨を切り裂かれた仁は瀕死の重傷を負った。その生命を維持するかのように、また母親が赤子をあやすかのごとく、メイゼルはおもむろに仁に自らの指を吸わせる。仁に対して先生役、妹役とあの手この手で攻め立ててきたメイゼルが、遂にはママとなって仁を襲った瞬間なのである。シリーズ屈指の圧倒的なド変態描写。

◆「メイゼルの復讐を止める仁」9巻/P218

 自分を慕っていたニガッタを殺され、メイゼルは半死半生の電磁騎士に復讐しようとする。しかし仁はそれを許さない。自分は復讐のためどころか、殺せば問題を解決できる相手ばかり殺してきたというのに。メイゼルはその矛盾を詰る。メイゼルは仁の前で、彼が彼の倫理を飲み込ませたい、『魔法使い』ではない、人を殺さない、ただの『子ども』でいることを拒否する。それはこれまでの物語の中で何度も問われてきた問題であり、仁とメイゼルにとって決定的な対立だった。
 しかしきずなとの関係を破綻させた『後悔と苦しさの底』で、仁はついに人生をかけるに値する夢を、理想を見つける。そしてメイゼルに約束する。「おまえのために世界を変える」と。 

◇「俺が夢を見せてやる!」9巻/P254

 武蔵野迷宮最深部。異世界へ通じる《門》が祀られた死の劇場。仁は東郷永光に斬られてからの再びの対面。新しい/変わった公館の未来の図には残れない刻印魔導師たちを巡る公館内の内紛の決着地点。
『魔法がなくても思うがままに生きていける、っていう夢をみせてくれる』という東郷についてきた《鬼火衆》に語り聞かせるように、仁は自らの夢を宣言する。
『魔法使いが、俺達の場所で、魔法使いらしく生きられる場所を、この俺が作ってやる!俺が夢をみせてやる!夢みたいな世界を俺と一緒に作らせてやるよ』
 仁はヒーローになって何をやりたかったか?それは『世界を変え』たかった。その答えが生まれた瞬間、仁は自らの力だけで恩師を超えようと奮闘する。
 しかしながら、メイゼルがつくろうとしていた仁と一緒の未来に、勝手に《鬼火衆》たちを加えてしまう仁のアレさはご愛嬌。そして、そのアレさはNPO活動編へと続く。仁、お前、つくづくだな。