円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~Blog版

C88で頒布した同人誌『円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~』のBlog版です。

決まり手集

はじめに

ここでは仁たちが繰り広げてきた強敵との戦い、そこで決着に至る過程を振り返る。本作はバトルモノらしく、様々な奇策とひらめきが勝負を決していることが分かると思う。なおここでは戦いのロジックを中心に語るので、ドラマの面については各章の名シーントップスリーを参照してほしい。


「仁・メイゼル・きずな・瑞希対エレオノール」1巻/P310

 直前に死亡したジェルヴェーヌが作っていた海水を利用した円環大系の大技《天使の輪》でメイゼルの勝ち。きずなが無色の手でエレオノールから神音楽器の指輪を奪ったスキに仕掛けたが、エレオノールはプラズマ流の完成直前に剣を媒介にした超高出力魔弾という奥の手を使っている。これは瑞希が気盾で逸らした。それ以上の反撃は完成した《天使の輪》内部では無理だったらしい。結果的に三人で綺麗にプリセット、キャスト、リアクトが決まった。

「仁対ケイツ」2巻/P227

 コンクリートの剣十三本による相似魔術の同時攻撃をケイツ自身が持った剣の動きから軌道を読んで避け、後詰めである拳銃弾一箱・五十発分の乱射も自分に当たらないように制御していることを読んで至近距離まで接近して回避し、パンチの応酬で一応仁の勝ち。魔法消去を使うまでもなく、相似魔術と術者の特性把握のみで倒しているが、グレンの才能をもらったところで戦いのセンスと覚悟がなければこんなもんなんだなあ、という残念感溢れる決着だ。

 

「仁・メイゼル対グレン」3巻/P282

 複製障壁で海水を増やしすぎて爆発した魔炎の影からメイゼルに弾いてもらった仁が《魔導師殺し》ごと突進して刺して勝利。魔法消去がなければ確実に仁たちを倒せたであろう攻撃だったが、不発した上に牽制不足ではワンチャン狙いの必殺鉄砲玉作戦には対抗策がなかった。リアクト無視という点ではグレンも仁も変わらないが、ここまで奥の手を隠していた仁の勝負勘勝ちということだろう。

「仁・メイゼル対エレオノール」4巻/P301

 周囲の壁や天井を鳴らして作った神音による全方位魔弾を、地面に映った影を黙視することで魔法消去して対応。制御を失った自分の魔弾でダメージを受けたエレオノールを仁が足止めしている間に、メイゼルが周囲の薬莢や銃弾をプラズマで溶かして弾丸とし、地下鉄の線路を電磁加速レールにして発射。エレオノールには光背があるが、熱せられて発光する弾丸自体を光源に仁の視覚の魔法消去により光背を突破して弾丸を直撃させ、勝利。円環大系は遡行抵抗を噛ませて攻撃しやすく、仁の魔法消去との相性がいいことが実によく分かる奇策だ。

「仁・メイゼル対王子護」6巻/P294

 仁が足止めしている間に、メイゼルが爆発した核爆弾のエネルギーを封じた球体をぶつけて勝利。仁が王子護の予想を超える判断で動揺を誘ったところ、メイゼルがその場で完全大系の防御力を破る=王子護の弱点を見つけた点が勝因か。メイゼルはこの段階では核爆発で攻撃する魔術を使えないと思われるので、わざわざ自分の弱点がある場所に出向いた王子護が舐めプしすぎだったのかもしれない。自分が最も恐れるものだからこそ、敵へ向ける武器として信頼していたのだろうが……。

「仁対東郷永光」9巻/P111

 互いに大上段に構えたところから打ち込みを流されて袈裟懸けに斬られ、仁の負け。魔法使いのために目を捨てたという東郷に、ついこの期に及んで「認められたい」と思って勝てない勝負に出て、案の定負けて、重症を負ってしまう、という冷静に考えると結構情けないシーン。さっき自覚したはずの戦う理由のブレが早速出たことに対する、師匠の強烈なツッコミのようだ(致命傷)。


「《憎悪の魔女》イリーズ対グラフェーラ、《雷神》クレペンス、《氷爪王》ヘンデリク、《不壊の宝珠》カレリア、《永劫の車輪王》、《皇統の薔薇》ベルアリスン、《破砕の主》ベルバグ」10巻/P218

 ベルバグが直径5キロの彗星の軌道を変え、ベルアリスンがそれを加速し、グラフェーラが《サジタリスの矢》で生命にのみ反応するよう照準して叩きつけて、イリーズに地上を守るために正面から彗星を受け止めさせ、その瞬間をグラフェーラとクレペンスが《サジタリスの矢》付の魔術で狙い撃ちにしてグラフェーラたちの勝ち。しかしイリーズの本来の目的は超高位魔導師たちの戦いで円環大系の調整者・神を引きずり出すことであり、その目論見は成功した。イリーズの螺旋の化身によって円環大系の神は一度破壊され、時間停止ののち再び神が降臨するもその性質は変化しており、従来の魔法文化も崩壊を免れなかったのだ。「自然秩序の調整者・神の破壊と再生」という本作最大級の事件を起こすに至る、超スケールの決戦である。

「仁・メイゼル対《雷神》クレペンス」10巻P346

 メイゼルがクレペンスの攻撃を魔力制御で無効化したところで仁が接近戦を仕掛け、仁の魔力消去への対策「死角からの瓦礫飛ばし」をメイゼルが撃ち落とした上で仁の《剣》の一撃で勝利。メイゼルがこの展開までで見せた成長を考えれば瓦礫飛ばしが二回目で対策されるのは読めるだろうから、接近戦を許したこと、一撃で致命傷を受ける《剣》を拾えるように仁が立ち回っていたのを把握できなかったのが敗因か。

「仁・メイゼル・ユリア他応報騎士団5人・ケイツ対《九位》」11巻/P318

 決まり手は、メイゼルに飛ばしてもらった仁の《剣》での一撃。
 仁の挑発で時間を稼いだところでユリアたちが合成因果巨兵《大逆天王》を完成させ、その超高出力水圧カッターで九位を自己円環の防御に専念させて足を止める。そこを仁が魔法消去と《剣》の一撃で九位の右腕を落とす。同時に仁も左腕を失うが、ケイツの相似魔術の治療でこれを回復。九位は仁が機動力を失ったと見てメイゼルを先に仕留めにかかるが、雲を使った音響兵器を対処され、また背後からメイゼルに磁力で雲の上を滑走させた仁に左腕を落とされ、詰み。円環大系は遡行抵抗を噛ませて防御する手段が乏しいのか、思ったよりあっさりと決着がついた印象。ともあれ内容を考えると、ここでのMVPは九位を自己円環の防戦一方に追い込んだユリアたち応報騎士団だろう。

「仁・ケイツ対《増幅器》」13巻/P452

 仁は接近戦で《増幅器》に一撃を与えるも、《増幅器》から戻った舞花に《剣》を砕かれ、さらに投げ倒されそうになる。しかし時間を超えたケイツの相似魔術が舞花の動きを止めた隙に、のど笛に左拳を打ち込み、拾い上げた神人遺物の斬り上げが決まって仁の勝ち。舞花が《増幅器》であることをやめ、体術勝負といういわば地獄生まれの専任係官対決を選んだこの一瞬で勝負は決まってしまった。本作のラストバトルを飾るに相応しい、壮絶でありながらもどこか物悲しい決着だ。