円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~Blog版

C88で頒布した同人誌『円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~』のBlog版です。

⑥NPO活動編

収録巻:円環少女(10) 運命の螺旋 、円環少女(11) 新世界の門

担当:◆…立花/◇…kieru

【あらすじ】

《協会》と《九位》への対策のため、ビッグサイトで会議が開かれる。《九位》について説明を求められたメイゼルは円環世界の《大崩落》を語り、仁はここで初めてメイゼルの過去を知るのだった。
 対抗勢力が一堂に会するこの機を狙って、《雷神》と電磁騎士団がビッグサイトを襲撃する。会場警備として雇われていた仁はメイゼルと協力してなんとか雷神を退ける。一方きずなは混乱に乗じて現れた神聖騎士団を返り討ちにし、初めての殺人を経験する。また京香は神聖騎士団に拘束され、「日本近海に島が突如浮上した」というTVニュースを見せられる。TVでは、王子護がその島アトランチスの住人を自称し、魔法を友情パワーと称して地獄と魔法世界の関係を国際問題にすり替えていた。
 メイゼルとともに亡命者としてアトランチスに侵入した仁は、乗り込んできた電磁騎士団を撃退し九位を無力化するが、核ミサイルは発射されアメリカ西海岸に甚大な被害が出てしまう。
 その頃幻影城に隠れていたきずなは襲ってきた神聖騎士団を相手に奮闘するが、追い詰められ、舞花に誘われるまま彼女を再演魔導師にしてしまう。さらに未来の再演魔導師に操られ《神の門》を召還してしまうが、核戦争は降臨した再演の神によって阻止されたのだった。

【名シーンTOP3】

◇「メイゼル慟哭――魔法使いの螺旋」10巻/P242

『……もっとあたしを憎むのよ!でないと、あたし、……あんたたちのこと、一番しあわせなときにつかまえて、監禁して、生きているのも嫌になるくらい責めぬくわ! あんたたちの子どもを、あたしみたいに堕落させるの。あんたが一番大事にしているものをムチャクチャに壊したげる。心にぽっかり穴をあけて、そこにあたしの姿を、声を、匂いを、足で踏んでぎゅうぎゅうに詰めこむの! イヤだって言っても、泣いて頼んでも止めたげないわ! あんたたちは寝ているときも、覚めている時も、あたしを思い出して毎日すすり泣くようになるの。ステキでしょう?』
 円環世界の神前裁判におけるメイゼルの慟哭。イリーズから引き継がれた“魔法使いを貫くこと”が螺旋のようにメイゼルの中に生まれた瞬間でもあり、イリーズ過去編の最大のメイゼルの魅せ場。憎んだら、愛したげるという発想/ドM思考もステキでしょう?

◆「おとぎ話の英雄に啖呵を切る仁」10巻/P330

 仁は「刻印魔導師というシステム、ひいては地獄と魔法世界の関係を変えてやる」と決意するが、ここでメイゼルを理不尽な目に遭わせた、より具体的で直接的な敵が仁と読者の前に現れた。円環世界でメイゼルの近くにいながら、メイゼルを孤独にし、彼らの世界や歴史、社会の責任を彼女に負わせたイリーズ、九位、雷神だ。
 雷神は「イリーズの戦いを継ぐメイゼルは円環世界のため死ななければならない」と言う。仁はメイゼルの過去と周りの大人たちのことを知り、改めて世界全体への怒りが爆発する。
 円環世界ではおとぎ話の英雄だという雷神に大人として啖呵を切りながら、仁は気付く。仁は中学生の頃、妹の舞花と否応なく戦いの世界に巻き込まれた。「この世界は地獄じゃない」と言いながら、仁はすでに『世界への、信頼』を失くしていたのだ。メイゼルが『助かる世界』になる、そう世界を変えるということは、かつての仁自身を救うことでもあったのだ。

◇「きずな、覚醒~女子高生と銃弾~」11巻/P214

 アトランチス決戦の裏舞台。再びの幻影城。二千人を超える神音大系の大集団vsきずな+《鬼火衆》。ライフルの扱い方、魔法の使い方を仁に教えてもらったきずなの再演魔導師としての覚醒。普通の女子高生が普通ではなくなる瞬間であり、人間誰しもが持つ“生き汚さ”で次々の聖騎士たちを撃ち殺してゆく図が、まさに円環少女シリーズ特有の、泥を舐めてでも生き続けなければならないということを表す凄惨な描写。《鬼火衆》たちを思うがままに操作する。矛として、また盾/肉壁として。さらには聖騎士達も自滅させるように操り、その殺戮は止まらない。その中でも、きずなが聖騎士の一人を操り、地面にばら撒かれた銃弾を魔法でその手元に弾かせ、装填し、射殺する。まるで効率よく作業するかのごとく人を殺してゆくシーンが個人的には一番印象的である。この脳内に繰り広げられる映像の美しさ、悲しさはシリーズ屈指。

◇「きずな、覚醒2~《沈黙》を継ぐ者~」11巻/P224

『すげぇや。うちの大将は、二代目《沈黙》でも襲名させるつもりですかぃ』
 幻影城。聖騎士団の隊長ばかりを次々と射殺してゆく血まみれのきずなの前には、《沈黙》が横たわった。
 能力覚醒から二代目襲名というエンタメ性の高い展開が非常に印象深い。特にきずなは仁のような人殺しなど理解できないと心で思いつつも、結果として仁とおんなじ、魔法使いに《沈黙》を与える存在になってしまったのである。また、このことがきずなに過去改変させる大きなきっかけとなった。エンタメ性でいえば、きずなの覚醒をテンポよく囃し立てる《鬼火衆》達のテンションも非常に楽しいシーンである。陰陽のバランスが抜群に良い。

◆「二代目沈黙」11巻/P225

 これまできずなが見せてきた能力から、再演魔法は使いこなせば強力な魔法であることは想像できる。しかし、その戦場での実力は、もっとずっと恐ろしく、身も蓋もないものだった。
 仁はきずなに狙撃銃を渡し、戦い方を教えた。相手の防御魔法は、再演魔法で解かせることができる。誰を撃てばいいかも、世界自体を本として観測して選んでもいいし、未来の魔法使いの判断に任せることもできる。銃弾を取り落とした? 近くの敵を操って、手元に飛ばせばいい。一度会ったことがある相手で、完全に操ることができない(再演耐性)? そいつの仲間を操って、背中を撃てばいい。そうしてきずなが神聖騎士団二千人の中の指揮官を撃ち倒し続けた結果、彼らは声を奪われれ、否応なく『沈黙』していた。
 その光景を見て、鬼火衆の一人は感嘆する。『(仁はきずなに)二代目沈黙でも襲名させるつもりですかぃ』と。むきだしになった再演大系の破壊力に、読者も『沈黙』せずにはいられないだろう。

◆「ケイツの尊さ」11巻/P325

 仁はエレオノールの部屋でベレーノに襲われたとき、ケイツを見殺しにしようとした(8巻P158)。メイゼルのニガッタの敵討ちは、彼女の倫理観をこの世界のものと寄り添わせたくて止めた(9巻P218)。
 そして激闘の末無力化した九位は、殺そうとした。九位は核攻撃の指揮者であり、メイゼルの母の仇かつ彼女に戦争の責任を押し付けた中心人物であり、また協会の強硬派でもある。だから、仁だけでなく、その場に居合わせた者たちはみな九位を「殺していい」と判断した。ただ一人、ケイツを除いては。
 ケイツは核テロ編後半の仁のように相似大系の少年リュカを人質に取られて戦わされていたが、それでも『殺すな』と言った。そもそもケイツは、今まで殺人だけはしていなかった。悩み苦しみながらも殺人を重ねてきた仁は、きずなに父殺しを白状したことを通じ、自分を『悪人』だと規定した。しかし似た状況にいながら殺人を否定したケイツは、仁自身より彼がかつて憧れていたヒーローに近かった。その『尊い魂』を見たことで、仁は九位を殺さない、新しい戦いの落としどころを見出した。