円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~Blog版

C88で頒布した同人誌『円環少女祝宴本~悪鬼のための栞~』のBlog版です。

⑦最終章

収録巻:円環少女(12) 真なる悪鬼、円環少女(13) 荒れ野の楽園

担当:◆…立花/◇…kieru

【あらすじ】

 ついに地獄に神は降臨した。魔法消去能力の減衰、魔法使いたちの跳梁跋扈。新世界の《門》が開き、核ミサイルが発射され、《幻影城》が出現した。
 世界は変革を迎えたが、仁の戦いは続く。アンゼロッタ&聖霊騎士との米軍基地決戦からの《真の悪鬼》覚醒。舞花による《増幅器》設置儀式が進行する中、《極星を追うもの》尋問、寒川奪還作戦、愛の巣お台場大混乱/インマラホテプ暴走、隅田川狙撃大会とそれぞれのキャラに、まるで再演魔術師に操られているがごとくに魅せ場が用意されてゆく。《逆天空王》とベルニッチによる新橋上空の攻防から、米軍基地地下の《縦抗》侵攻、そしてコンサートホール最終決戦。作品最高のクライマックスである《運命の化身》からのオールキャラ総出演は、得も言われぬ絶品。イリーズ・アリューシャvs《九位》&《雷神》。グレン&ケイツvsスセラミス派、セラ・バラード&スピッツ・モード、ユリア・シュバール&フィリップ・エリゴル、十崎京香&王子護。加えて、アリーセ・ヴァンシュタインvs神和瑞希。エレオノールvsアンゼロッタ。クライマックスは世界の終末での仁vs舞花。
 うーん、〈大スキ〉。

【名シーンTOP3】

◇「メイゼル、それはままならないもの」12巻/P199

 アラクネをアトランチスへ護送した翌日。寒川紀子の魔法消去さえも消えてしまった。この世界に神が降臨し、世界は変革を迎えた。仁の魔法消去も弱まりつつある。自動車で移動している仁とメイゼルによる地球最後の日を思わせるデート風景。赤信号で車が止まった隙に、仁のシフトノブに置かれた手にメイゼルのちいさな手がそっと重なる。
『あたし、せんせの人生で、一“番ままならないもの”になろうと思うの。せんせが、現実が思ったみたいにならなくて苦しいなら、あたしがもっと理不尽なものになったげる』
 メイゼルらしい嗜虐性の高い台詞。幼い頃の仁の一番“ままならないもの”だったのが妹の武原舞花であった。過去、真夜中に妹を荷台に乗せて自転車を走らせていた仁。そしてアンゼロッタ来日の際、倉本きずなをきずなの高校から連れ去り、オートバイに乗せて走った仁。仁はきずなと出会い、きずなの父をその手で殺してからというもの、倉本きずなもまた仁の中の”ままならないもの“の一つとなってしまっていた。
 いつの世も”ままならないもの“と一緒に走る仁の人生が、一番ままならない。

◆「真なる悪鬼、覚醒」12巻/P240

 再演の神が降臨し、魔法消去の力は弱くなった。戦いのセオリーが変わり、メイゼルは消去を突破した導きの光剣による遠距離狙撃で重傷を負ってしまう。なんとか助けようとする試みはことごとく再演魔術の介入で邪魔され、ついに仁は舞花とアンゼロッタの罠に嵌められて神聖騎士団に包囲されてしまうのだった。
 再演世界は『人を救う自然秩序』であり、神の降臨から世界は一人の餓死者も出していないという。しかし理想のはずのその世界は、神をも破壊できる魔法・螺旋の化身が使えるメイゼルを恐れ、命を奪おうとする。
 最大の武器であった魔法消去が弱体化し、目の前には聖騎士将軍・アンゼロッタ。メイゼルが息絶えそうになっても、今の仁はなにもできず、ただ打ちのめされるだけだ。その絶望の中、仁は言う。「俺には、今、この世界が地獄だーーーー」と。「この世界は地獄ではない」と、仁は今までずっと言ってきた。その仁が、降臨が起きた世界を『地獄』だと断じた。それは、地獄固有魔法の一つであった魔法消去を――その自然秩序を選択するということだった。
 自覚的に選択されて復活し、『チャンネルが合った』状態となった仁の魔法消去は、聖騎士将軍アンゼロッタの魔法さえも焼き尽くす。これまでの大ピンチが覆され、ここまでで11冊になる、仁の長い戦いを支えた最強の武器、魔法消去がより強力になって帰ってきた。
 奇跡を、魔法の力をよく知り、それでもなお魔法を否定する。それが『真なる悪鬼』であり、奇跡の真の天敵なのだという。その魔法消去が生み出す魔炎が、魔法に怯える人々にやすらぎを与える。ここまで物語につきあってきた読者なら分かるだろう。それは、奇跡を持たない彼らの反撃の狼煙なのだ。

◆「仁の転落」13巻/P333

 核テロ編で公館を離脱し、公館陥落後はNPO法人代表となった仁。物語当初と比べれば職の安定性はガタ落ちだが、仁が世間体や大人としての矜持を失っていくのはむしろこの先からが本番であった。教師と生徒の関係だったはずのメイゼルと(イチャイチャしながら)アトランチスに亡命するところを世界中にTV中継される(11巻P151)のを皮切りに、生家に連れていったメイゼルに正座させられて平手打ちされたらもっと叩かれたい気分になる(12巻P104)、紙幣と硬貨を使って戦力分析していたらメイゼルに「おかねをオモチャにしてあそぶのって、たのしい?」と冷たい目で見られる(12巻P124)。転落の加速度は巻が進むごとに増していき、最終巻では魔法消去能力をまだ持っている女子高生にお金を握らせて協力してもらう(13巻P162)、携帯電話とついでに財布をメイゼルに預ける(13巻P187)、そして……と、ここまで付き合った読者をしてドン引かせるほどの転落ぶりだ。その激しさは、降臨以降の世界の変わりように勝るとも劣らない……?

◇「《運命の化身》」13巻/P346

 再演魔導師/武原舞花は大魔法を完成させ、世界の最後の1ページへと時間跳躍した。世界の魔法消去能力はほとんど停止し、新世界の扉が開かれた。押し寄せてくる魔法使いたちが暴れ回り、世は混沌の渦中にあった。そこに現れたのが、二十六個の歴史から参上した二十六人のきずな。
『さあ、“未来”から世界を帰る再演干渉に、ここに集まった“現在”が、目にものみせてやりましょう。“過去”を操った者たちへ、歴史からの鉄槌を叩きつけましょう。迷い続けて戦いを生きることが無駄ではないと、教えてやりましょう!』
 ここから生まれる世界の逆転劇。それぞれの歴史のきずなが育んできた、生きた証である“絆”によって呼び出される本作に登場した魔法使いたち。イリーズ・アリューシャ、グレン・アザレイの復活。これだけでもう反則級の大魔術なのに、死んだセラの義弟スピッツ・モードやメイゼルの犬こと瀬利ニガッタも復活し、涙なしでは読めない一幕。
 クライマックスの最高潮。

◇「メイゼルのためなら神サマさえも殺す」13巻/P417

“最後の魔法使い”が《増幅器》に刺客を送り込む《扉》が出現するほんのすこし前。
 再演魔術を防げ、“最後の魔法使い”が魔法で呼び出せ、武原舞花の肉体に勝てるくらい強い人間、それは《真なる悪鬼》である武原仁。その仁とメイゼルの別離のシーン。
『わかってるの? せんせは、たくさんの未来が救われる“未来”をこれから壊しに行くんでしょ? あたしがスキでたまらなくて、そうすることを選んだんでしょう。それって、あたしのために神サマを殺しに行くようなものなのよ。せんせは、あたしがスキだから、この世界の“救われる未来”と神サマを捧げようとしているの』
 boy meets girlの落とし所としては、これ以上の台詞はない。
 メイゼルは《螺旋の化身》で神さえも殺す魔法を手に入れた。だがしかし、歴史の果てで舞花を止めることができるのは武原仁だけ。メイゼルの《螺旋の化身》と仁の《増幅器》となった舞花を止める行為は、共に神サマを同じ殺すこと。つまりこの瞬間、ふたりの関係は神サマさえも殺す能力という観点で、はじめて対等になる。神サマを殺さなければ仁はメイゼルと対等になれなかったとも換言できる
 24歳のNPO法人代表/ほぼ無職の男性が、小学生と好き合うには神を殺さなければならいというboy meets girl@ドM編の決定版。だからこそ、ラストシーンでは大人になった、対等の関係のメイゼルが時空を超えて追いかけてくれるのである。
 メイゼルのためなら神サマさえも殺す。仁は本当に最低で、屑人間で、でも最高にかっこいい男だよ。そして、『メイゼル、お前はいい女だよ』

◆「《増幅器》との戦い」13巻/P437

 仁の最後の戦いは、人間が絶滅した遠未来の地球での、再演大系の《増幅器》との一騎打ち。時間的にも空間的にも、これまでの物語の中で最も孤独な戦いだ。
 仁は『神を知ってなお、神の不要を叫ぶ、《真なる悪鬼》だ』から、再演大系最高の魔法使いである《増幅器》との戦いでどんな怪我を負い、追い詰められても『奇跡はない』。だが、ここまでに描かれたドラマ再演大系――の救いを拒絶する仁自身、メイゼル、きずな、人々の想い、現代での別れから人類絶滅に至るまでのきずなの長く果てしない戦いすべてが、仁の背中を押すのだ。だから仁は吠える。「全部ここに持ってきた!」と。
 あとは、あなた自身の目で、指で、仁の最後の戦いを見届けてほしい。